モノトーンミュージアムRPG『アリスと歯ぐるま』

アリスと歯ぐるま

■演目データ

傾向:【シティ】【ファンタジー】【童話】【協力型】
プレイヤー:3~4人 ※基本4人を推奨する
演者レベル:3~4
プレイ時間:5~10時間(オフライン及びボイスセッションの場合)
必須:ルールブック『モノトーンミュージアムRPG』(以下、『MM』)
推奨:サプリメント『インカルツァンド』(以下、『IZ』)

■本演目について

 この演目は、職工の国とからくり、からくりをめぐる人々に焦点を当てた物語だ。いわゆるシティアドベンチャーに該当する(ここで言うシティアドベンチャーとは、世界観内で既に設定の存在する規模の大きな街や国を舞台とする演目を表す)ので、世界観の理解を深めるために『IZ』の所持が推奨される。特に職工・狩人クラスを演じるプレイヤーの所持は必須となる。
 GMであるあなたは、プレイ前に演目と職工の国、からくり、職工に関する解説に目を通しておくとよいだろう。

■演目背景

 職工の国。白領山脈の崖に張りつくようにして作られたこの国には、山脈の峰に沿って取りつけられた巨大な歯車が物質と精神の両面で象徴として存在する。それは技術の進歩と発展の柱でもある。歯車の永続する回転は、動力に利用され山を上下するロープウェーとなり、また回転をアイデアに蒸気機関とそれを利用した鉄道技術を生み、その運動エネルギーは電力に、さらに電話等の次世代の技術をも生む素地になっている。
 そんな職工の国において内外問わず最も知られる技術は、からくりである。主要な輸出品であるからくりを造る技術は規格化が進む分野と言われるが、いまだ一子相伝の業や再現不可能と言われるからくりが見つかるなど、謎多き分野でもある。

 薄暗い廃品置き場で目覚めたからくりは、そんな謎多きからくりのひとりである。目覚める以前の記憶は無く、どうしてここにいるのかもわからない状況、唯一わかる事は『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』という言葉を持つ事。
 「美しいもの」を探さなければ――なぜ見つけるのか、見つければどうなるのか、そもそも「美しいもの」とは何か。それら使命を果たすために必要な事は何もわからないが、わからない事は、からくりにとって使命を遂行しない理由にはならない。からくりの目覚めた廃品置き場にはガラクタが大量にある。手始めにからくりは、ガラクタから「美しいもの」を探し始めた。

 ガラクタから「美しいもの」を探す日々の中、からくりは廃品置き場でひとりの職工と出会う。職工と交流する中で、からくりは『巨大な歯車』の存在を知る。「歯ぐるま」。それはからくりの持つ唯一の言葉と同様に、からくりの魂に響いた。からくりは、歯ぐるまが「美しいもの」と関係しているという確信を持つ。廃品置き場を出る時がきた。からくりは遠く山の峰を見上げる。
 空覆うスモッグの先、遙かなる白領山脈の峰に、目指すべき歯ぐるまがある。

 からくりが歯ぐるまに近づくにつれて、周囲に異常な現象が表れるようになった。それは人々の時間の歪みであり、一秒が二秒、二秒が四秒、四秒が八秒へと時間秩序の認識が緩慢になってゆく。このままでは時間は進む事を止めるだろう。その先に待つものは、歯ぐるまの回らない永遠に静止する世界である。
『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』
 それはからくりの持つ唯一の記憶ことばであり、そして、からくりの魂に刻まれた歪んだ御標であった。

 からくりの製作者は、かつて伽藍アリスに魅入られたからくり技師である。アリスはからくり技師を唆して自身の狂気を模したからくりを造らせた。しかしそれは、実のところ歪んだ御標を核とした時限爆弾であり、爆弾の起動条件は『永遠を希求する事』である。
 そして永遠の希求は、職工が「歯ぐるま」を告げる事で為され、その時、からくり爆弾は起動したのである。

 からくりは起動し、歪んだ御標は世界に歪みを振り撒いてゆく。人々の時間の糸はほつれ、やがて時間秩序は崩壊するだろう。
 これを阻止する術はひとつ――歪んだ御標の核であるからくりを破壊する事。
 歯ぐるまは、その回転を徐々に緩慢にしている。選択肢はひとつ。決断の時が迫る。

 窮極の状況の中、神よりくだされし御標に導かれた“ミセス・ハート”がPCたちの前に現れる。彼女はPCたちに新たな選択肢ブレイクスルーを提示する。
『正しい心のからくりは歪んだ歯ぐるまを打壊し、すべて世は事もなし』
  “ミセス・ハート” は言う。からくりの「目覚めてからの人格」を奇魂石へと複製コピー&ペーストする事で、「歪んだ御標」のみを排除できると。しかしそれは、からくりの原物オリジナルの記憶が永遠に失われる事を意味する。
 選択肢はふたつにひとつ――そして、PCたちは決断をくだす。

 取り出された『歪んだ御標』は、純粋な狂気を顕在させて伽藍アリスの影を形造る。
 PCたちが伽藍アリスの影を倒す事で、その核たる歪んだ御標は排除される。戦いの後、PCたちのその後を描き、演目は終了となる。

■ハンドアウト

 各PCには以下の設定がつく。セッション開始時にプレイヤーとよく相談すること。
PC①:「美しいもの」を探す機械人形からくり
PC②:新進気鋭の時計技師
PC③:正しい時間ときつくろう裁縫師
PC④:狂気を砕く狩人

◆演目「アリスと歯ぐるま」【PC①用ハンドアウト】
パートナー:「美しいもの」 感情:執着
クイックスタート:歯車仕掛けの従者(『MM』P50) クラス:からくり
 君は記憶喪失のからくりだ。君の目覚めた場所は職工の国の薄暗い路地裏だった。辺りには既に役目を終えたガラクタが山と積まれている。そう。そこは廃品置き場に相違なかった。いつ、どこで、だれが君を造ったのか――何もわからない。君の持つ唯一の記憶は『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』という言葉。「美しいもの」――君はそれを探すため、ひとまずガラクタの山へ向かった。

◆演目「アリスと歯ぐるま」【PC②用ハンドアウト】
パートナー:巨大な歯車 感情:憧れ
クイックスタート:鋼の造物主(『IZ』P82) クラス:職工
 君は職工の国の時計技師だ。君は保守的な時計技術に新風を起こそうと日夜模索している。そうして創意を得ようと訪れた廃品置き場で君は記憶喪失のからくり(PC①)と出会った。そのからくりは「美しいもの」を探しているという。「美しいもの」――君には心当たりがある。遠く白領山脈の峰に並んだ巨大な歯車。神秘で高度の美しい技術もの。その奇妙なからくりは、巨大な歯車のもとへ行くという。君はそのからくりに興味を持ち、同行する事にした。

◆演目「アリスと歯ぐるま」【PC③用ハンドアウト】
パートナー:アブラアン・ブレゲ 感情:感服
クイックスタート:針の魔女(『MM』P36) クラス:裁縫師
 君は“夜の女王”からある人物に会うよう連絡を受けて職工の国へ訪れていた。その人物とは、国随一の時計技師“神の腕”アブラアン・ブレゲである。ブレゲは君に「時間秩序の歪み」について話す。ブレゲによると、現在、職工の国で人々の時間に認知不能の“ほつれ”が発生しているという。――このまま時間ときが狂えば、やがて現実秩序は崩壊する。ブレゲは言った。恐ろしい事が起きようとしている。君は正しい理を繕わなければならない。

◆演目「アリスと歯ぐるま」【PC④用ハンドアウト】
パートナー:伽藍アリス 感情:(任意)
クイックスタート:魔弾の射手(『IZ』P86) クラス:狩人
 それは狂った少女のみる夢。或いはアリスという伽藍。君の目的は、それを終わらせる事。アリスを追う君のひとみは彼女を発端とする多くの悲劇を映してきた。アリスにとって世界とは“自分のみる夢”でしかなく、めちゃくちゃに壊して構わないものらしい。わからせなければならない。彼女の都合の良い虚構を否定し、“甘くて幸せな夢”など何処にも無いという事を。
 ある殺戮劇の終幕に君はアリスと対峙した。そこでアリスの言った時計と歯ぐるまに関する狂言は、君につぎの行き先を決めさせた。

■今回予告

うるわしき黄金の昼下がり、ある“美しいもの”との出会い――
永遠に回りつづける歯ぐるまの国の狂った永遠を夢みる“だれか”は願うのです
時間よとまれ、君は美しい。美しいままに滅んでくれるなと

やがて“あなた”は目を覚ます。時計の針は動きだす
動きだした時計の針は時間秩序の輪環に暗影を落とす
「つづきはこんど――いまがこんど!」と、進む針と止まる針
永遠の美を求め、進展と停滞は秤にかけられる
――――さあ、まこと美しいものを決める時がきた

モノトーンミュージアムRPG『アリスと歯ぐるま』
――――かくして、物語は紡がれる

■キャラクター作成

 今回予告を読み上げたのち、ハンドアウトを各プレイヤーに配布せよ。どのプレイヤーにハンドアウトを渡すかはGMの任意にしてもよいし、プレイヤー間で選択させてもよい。プレイヤーの人数が少ないときはPC番号の若い順に優先すること。
 サンプルキャラクターや推奨されるクラスについては、ハンドアウトを参照すること。

●PC間パートナー
 キャラクター作成後、PCの自己紹介を行う。その後にPC間パートナーを結ぶこと。
※なお、PC①は導入時、PC②の導入で出会う事を除いて、他のどのPCとも初対面である。このことは、キャラクター作成時にプレイヤーに説明すること。以上の事情から、PC間パートナーを結ぶのはPCの合流時でも構わない。
結び方は以下のとおりにするか、PL同士が相談して決めてもよい。進行に都合の良い様にすること。
PC①→PC②→PC③→PC④

●舞台設定:職工の国
 左の地は北部、峻厳なる白領山脈の崖に張りつくようにして作られた国こそ職工の国である。この国は技術力に秀で工業技術を以て諸国に名を知られる。この国の人々は進歩と発展を尊び、自然暮らしも技術に依存し、その多くは職工や職工に関連する仕事を生業とする。国全体に職人気質の風があり、この国の人々は、昔ながらの頑固実直さと、新しい技術を拒まない風通しの良さの二面性を持つ。
 そんな人々が誇るものはなんといっても巨大な歯車と蒸気機関である。どちらも生活になくてはならない技術であり、また様々の他の技術の礎でもある。特に白領山脈の峰に沿って並んだ巨大な歯車は、国の何処からでも見上げる事が出来、蒸気機関の吐く煤煙のため上空をスモッグに覆われ常に薄暗い職工の国で暮らす人々にとって、休みなく回る巨大な歯車は、太陽のような象徴である。

●クイックスタート
 以下の5つのサンプルキャラクターをクイックスタートで使用することを推奨する。
PC①:歯車仕掛けの従者
PC②:鋼の造物主
PC③:針の魔女
PC④:魔弾の射手

●コンストラクション
PC①:からくり ※義肢型からくりではなく純粋なからくりでなければならない
PC②:職工
 ※『IZ』必須
PC③:裁縫師
PC④:狩人
 ※『IZ』必須

○オープニングフェイズ

それぞれのPCが事件に関わっていくまでの『導入』を描くフェイズ。

●シーン1:からくりの目覚め
シーンプレイヤー:PC①
◆解説
 描写1は、薄暗い路地裏で目覚めたPC①が、表通りの雑踏から聞こえてくる話し声を聞き自身の置かれている状況を整理する過程を描写するシーン。描写1後、描写2に移り、唯一記憶する言葉を、自分の目的として認識する。
 なお、描写2でPC①が『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』という魂から響く声を聞いた瞬間が、PC①の魂である歪んだ御標が紡ぐ「時間秩序の歪み」が発生する瞬間である。この時点でPC①はそれが歪んだ御標の声だと気づくことは出来ず、他に紡ぎ手もいないため歪みを引き受けることはできない。以降、PC①は知らず知らずのうちに何度も歪んだ御標を繰り返すことになる。
▼描写1
 目覚めたらどこか薄暗い場所にいた。辺りにはガラクタが山と積まれている。遠くからは雑踏の音と、たくさんの話し声が聞こえてくる。どうやら、ここは表通りから逸れた路地の先の四方を建物に囲まれた薄暗い広場で、それが廃品置き場と化した場所らしい。どうして、こんな場所に?
 君はこれまでの事を思い出そうとして気づいた。――過去の記憶がない。

▼セリフ:雑踏から聞こえてきた会話
(会話1・問)「鉄道中央駅はどっちに行けばいいかな? せっかく職工の国へ来たのだし乗りたいのだけれど」
(会話1・答)「それならこの表通りをまっすぐ進んだところにあるデカい建物がそれさ。ただ……鉄道周りはまだ開発が整ってなくて出る数が少い。乗れるかどうかは微妙だね」
(会話2・問)「この辺りも開発が進んできたわね。来るたびに新しい建物があるんですもの」
(会話2・答)「けれど問題もあるんですって。急な開発の弊害でよくない人の溜り場になったり……不法投棄が増えたり……ほら、あの路地の先の広場なんて、周りは建物に囲まれてて陰気臭いから人も近寄らなくて、ゴミ捨て場になっちゃったのよ」
▼描写2
 君はからくりである。ならばいつか、どこかで、だれかが君を造った事に間違いはない。だというのに、その記憶がまったく無いというのは不思議だ。君はさらに記憶を探る。すると、思い出せるものがひとつだけあった。それは、まるで魂から響く声のように、君の脳裏に木霊した。
▼セリフ:魂から響く声
『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』
◆結末
 『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』。その言葉は君の唯一の記憶だった。「美しいもの」とは何か。それはわからない。わからないなら、探すしかない。もとより、それ以外何も覚えていないのだから、覚えている事を目的とするのに間違いはないだろう。幸いにも君のいる場所は廃品置き場。辺りにはものが山と積まれている。
 PC①が廃品置き場で「美しいもの」を探し始めたら、シーンは終了となる。

●シーン2:兎狩り
シーンプレイヤー:PC④
◆解説
 PC④が職工の国を訪れる前、伽藍アリスを追う中で彼女と相対した時の回想。家々は焼け落ちて逃げ惑う人々も既に息絶えた殺戮劇の幕引きに、PC④が劇の舞台に駆けつける。すべて終った場所でアリスと相対したPC④は、つぎの舞台について伝えられる。
▼描写
 それは職工の国に訪れる事を決めるきっかけとなった事件。君は伽藍アリスを追い北部を旅するなかでアリスの情報を入手し、ある町へと駆けつけた。しかしそのとき事態は既に手遅れであり、アリスによって町は破壊され、人々は死に絶えていた。
 廃墟と化した町の広場から愉しげな少女の笑い声が聞こえてくる。それは紛れもなくこの場所で殺戮を行ったアリスのものであり、彼女は血に塗れたまま、まるで劇の終幕に出演者が踊るように独り広場で舞っている。
 君の姿に気づいたアリスは動きを止め、君に人懐こい笑みを向け、声をかけてくる。そこには周囲の惨憺たる有様を気にする様子は微塵もない。
 この殺戮劇の主役である少女は君に対し、つぎの舞台について話した。まるでつぎは間に合うかと挑発するように。

▼セリフ:伽藍アリス
(駆けつけたPC④に)「ごきげんよう、PC④さま! 本日は、お日柄もよく」
(舞台の主役として)「登場にはちょっと遅いんじゃない? ほら、ぜんぶ終ってしまったの。貴方が遅かったから、もう皆静かになっちゃったわよ?」
(去り際に唄うように)「夢の中ではだれもかれも時計を気にしているの。それって不思議よね? あたし知っているわ。時計ってとっても繊細で、歯ぐるまひとつ失えば、針が動くことはないのよ?」
◆結末
 こうして君は、こんどこそアリスの殺戮を阻止すべく、つぎの舞台である時計と歯ぐるまの舞台――職工の国へ向かう事を決めた。シーンは終了となる。

●シーン3:時計の針は刻を縫う
シーンプレイヤー:PC③
◆解説
 PC③は“夜の女王”の要請に応じ、アブラアン・ブレゲより現在起きている“ほつれ”の詳細を聞くため、職工の国のブレゲの工房へと訪れる。ブレゲはPC③に「時間秩序の歪み」について話し、その解決を依頼する。
▼描写
 チクタク、チクタク――そこには時を刻む音が充満している。君は“夜の女王”の連絡を受け、職工の国のブレゲの工房へと訪れていた。国随一の時計技師アブラアン・ブレゲ。“神の腕”とも称される職工は、奇妙な“ほつれ”を見つけたという。
 ブレゲは君に「時間秩序の歪み」について話す。それは認知不能の“ほつれ”で、人々の時間を狂わせ、現実を崩壊させるものである。
 時計は正しい時を測る機械だ。歪んだ理は正せない。それは裁縫師の手業だ。

▼セリフ:アブラアン・ブレゲ
「アブラアン・ブレゲだ、PC③。あんたの事はアリアから優秀だと聞いたよ」
「時間がない。いま職工の国で起きている「時間秩序の歪み」について話そう」
「前提として――時間には2つの見方がある。ひとつは“運動の間隔”としての時間。これは時計で測れる物理時間だ。もうひとつは“運動の感じ方”としての時間。時計では測れない、謂わば意識時間だ」
「“ほつれ”が顕れているのは後者の意識時間。数日前、おれは自分の造った時計の針の運行に微かな違和感を持ったことで、この歪みに気づいた。意識時間が、物理時間から剥離する感覚――それが“ほつれ”による「時間秩序の歪み」だ」
「その感覚のズレは未だ誤差で済んでいるが、時間が経つ毎にほんの僅かに増しつつある。誤差が積れば、いつかおれたちの1秒は永遠となり、現実は崩壊する」
「恐ろしい事が起きようとしている。おれは時計を造り、それを知った。正しい時間を繕わなければならないが、おれにはできない。できるのはPC③、あんただ」
◆結末
 君は職工の国で起きている事件を知った。ブレゲはその解決を君に依頼した。遠く白領山脈に回る巨大な歯車が目印になるとブレゲは言う。街の人々が歯車の回転を奇妙に感じ始めたらいよいよ覚悟をする時だと。解決を急がなければ。時間は進むほどに意味を成さなくなるのだから。
 PC③が事件の解決に乗り出したら、シーンは終了となる。

●シーン4:職工は語り、からくりは夢みる
シーンプレイヤー:PC②
◆解説
 PC②は新しい時計の創意を得るために路地裏の廃品置き場を訪れ、PC①と出会う。PC②から巨大な歯車の事を伝えられると、PC①は再び、魂から響く声を聞く。巨大な歯車のもとへ向かうPC①に、PC②は同行する。
 PC①が巨大な歯車を知った時、PC①の魂である歪んだ御標から二度目の歪んだ御標が発せられる。『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』という言葉(歪んだ御標)がPC①の内に響くが、PC①はそれを歪んだ御標であると認識できず、PC②もそれがPC①から下されたものだと気づけない。混乱を避けるため、歪み表の処理はミドルフェイズのシーン5で行なうこと。
▼描写
 ある時、古い時計技師が言った――“時計技術に革新はいらない”と。対して、若い時計技師は嘆いた――“枯れた技術などつまらない”と。職工の国に保守派と革新派の対立があるようにどこにも対立はある。
 いま君は鉄道中央駅に近い路地裏の廃品置き場にいる。ここには新しい時計について創意を得ようと訪れていた。君はそこで、憑かれたようにガラクタを漁るからくりと出会った。そのからくりは記憶喪失で、何かもわからない「美しいもの」を探しているという。
 「新しいもの」を探す君と、「美しいもの」を探すからくり。その奇妙な出会いは君の興味を惹いた。「美しいもの」――君にはひとつ、心当たりがある。

◆結末
  君の言葉は、からくりを遠く白領山脈の峰に並んだ巨大な歯車へと目指させた。からくりの探す「美しいもの」――それは君の興味を惹いた。君はからくりに同行する。
 職工とからくりは巨大な歯車を目指す。かくして、物語の歯ぐるまは静かに回りだした。
 PC②がPC①に同行して巨大な歯車を目指したら、シーンは終了となる。

○ミドルフェイズ

PCの『合流(協力)』と事件の『調査』、『真相の究明』を描くフェイズ。
 シーン5以降、PC①が「永遠を希求する」たびに、その魂に秘められた歪んだ御標が繰り返される。永遠への想いは歪んだ御標を紡ぐ動力となって、 『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』 という言葉を叶えようとするだろう。従って、GMは、シーン5以降、PC①が「永遠を希求している」と思える言動をするたび、発生源不明の歪んだ御標を下らせ、歪み表を振って構わない(ここで発生した歪みはPCが引き受けられる)。なお、GMは歪んだ御標の下った回数を記録しておくこと。

●シーン5:時間は進む
シーンプレイヤー:マスターシーン
◆解説
 PCたちはそれぞれ「時間秩序の歪み」に遭遇する。人々の認識に現れた“ほつれ”が、静かに現実を侵食する。シーン4でくだされた歪んだ御標の影響により人々の“時間の感覚”のズレが顕著になる。この時の歪み表(『MM』P263)は神権音楽を選択して発生させること。
▼描写
 今日はやけに時間の進みが遅い――それは人々が感じた小さな違和感。
 例えば、ある詩人は時を忘れて日課の詩を吟じた。ある時計技師が仕事の合間に数分の休憩を取った。ある童子はふと空を見上げた。そして違和感を感じた人々が続けて言った。
「――それに、今日の歯ぐるまは、なんだかおかしい気がする」
 数々の小さな違和感にだれしも首を傾げるが、それはまだ、「気のせい」に違いない。

▼セリフ:違和感を抱く人々
(詩人)「おかしいな、気が済んだのに未だ日が落ちていない」
(職工)「どうしてだ、時計の針がなかなか進まない」
(童子)「なんで、きょうは雲がゆっくり流れるの?」
◆結末
(歪み表をROCする)
 人々の頭の中にどこからか不思議な音が聞こえてくる。“カチカチ、チクタク、カチカチ、チクタク”――それは歯ぐるまの回る音。それは時計の針の音。耳をふさいでも聞こえる音は人々の正気をすり減らしていく。
 事態を目にしたPCたちは歯ぐるまを目指し、シーン終了する。
※ここで発動する歪み表は、シーン4でPC①から発せられた二度目の歪んだ御標である。尚、一度目の歪んだ御標の発動はシーン1のPC①の目覚めとなる。

●シーン6:一刻を争う
シーンプレイヤー:PC②
◆解説1
 PC全員登場。巨大な歯車を目指していたPCたちが合流する。その時、ロープウェー乗り場で乱闘騒ぎが起きる。怒り狂う人々は暴徒となり、あちこちで悲鳴があがり始める。この状況は異常だ。
▼描写1
 君たちは各々の目的のため巨大な歯車を目指す。職工の国で巨大な歯車のもとへ向かうにはロープウェーを利用するのが一般的な方法だ。移動に使われるロープウェー乗り場はロープウェーを待つ人々で賑わっている。だが、その賑わいは不穏を孕んでいた。
▼セリフ:ロープウェー乗り場の人々
「なあ、次のロープウェーはいつ来るんだ? 随分遅くないか?」
「そこまで言うほどかね。確かに、少々遅れてる気はするが……」
「今日はどうしたんだろう。いつもはこんなに待たないのに」
「クソ、時計が壊れてやがる。だれか時計は持ってないか?」
「おい、おまえ! 割り込むなよ! こっちはずっと待ってんだぞ」
「うるせえ! なんでロープウェーは来ねえんだよ! おれは急いでるんだ!」
「あなた、乱暴はやめなさいよ――きゃあ!」
「てめえ何やってんだ! うわっ、危ないものを振り回すな!」
「おかあさんっ……ああっ、血が……だれかたすけてっ!」
◆解説2
 ロープウェーの発着の間隔に大きな遅延は見られない。騒ぎの原因は「時間秩序の歪み」にある。混乱し暴徒と化した人々を止めなければ危険な状況だ。どうやら、手荒な方法を使ってでも早急に騒ぎを収める必要がありそうだ。
 暴徒との戦闘。怒れる群衆(モブ、データは下記)と戦って勝利すれば場の混乱を収められる。PCたちと暴徒はエンゲージした状態から戦闘を開始する。
 戦闘に勝利すれば描写3を読み上げる。尚、敗北した場合は「人々に犠牲者が出たが、辛うじて混乱は収まった」として描写3を演出する。
▼描写2
 君たちは暴徒化した人々を鎮め、混乱を収めようとするも、だれも耳をかそうとしない。それどころか、武器を手に君たちに襲いかかってくる始末だ。

▽敵データ
名称:怒れる群衆
種別:人間/レベル:モブ(3)/サイズ:1
肉:9/+3 知:9/+3 感:6/+2 意:12/+4 社:3/+1 縫:0/+0
命:10 回:0 術:0 抵:2 行:6 HP:34 MP:8
攻:<殴>+5 対:単体 射:至近 防:斬2/刺0/殴1
特技:《歪みの群れ》8/LV:1/タイミング:常時/自身の<斬><刺><殴>の防御修正は、+[同エンゲージ内にいるモブエネミーの数×LV]される。
「怒り狂った暴徒の群れ。――狂気のなかには、伝染病のようにはびこるものもある。

◆解説3
 PCたちは暴徒を鎮圧し騒ぎを収めた。その後、PCたちは“職工の国”で起きている事件解決に向けて共闘関係を確認し、またそれぞれの持ちうる情報を共有する。
 なお共有する情報については各PLの任意の判断に任せられる。
◆結末
 君たちの持つ情報は全容を掴むには至らなかった。事件解決のため、歪んだ御標の発生源を探さなければならない。
 さらなる情報収集のためにPCのたちは再び行動を開始し、シーンを終了する。

●シーン7:情報収集
シーンプレイヤー:PC③
◆解説
 このシーンは情報収集シーンとして扱われる。PCは全員登場となる。
 以下に▼情報項目と使用できる【能力値】、難易度を挙げる。
 PCひとりにつき、1回ずつ情報収集判定を行える。もし、全員の判定が終了しても、調べきれていない情報項目があった場合は、シーンを改めて再度判定を行う。また再度判定を行う際は、迫るタイムリミットを表現するため、歪んだ御標がひとつくだる。
 情報収集判定にファンブルした場合、該当PCの剥離値をプラス1する。

▼御標を紡いだのはだれか(【縫製】)※PC3のみ判定可能
・難易度10
 世界の理、時間秩序――それは「始まり」と「終わり」の関係を意味する。このまま「時間秩序の歪み」が進めば終わりがどうなるかは明白である。とすれば、探すべきは事の始まりだろう。
・難易度12
 出来事には始まりが存在する。発端は何か……それは目立つものではないはずだ。だれも見つけられない、薄暗がりの中で何かが起きたのだ。暗闇から這いだしたもの――始まりを意味するものこそ歪んだ御標の源である。

▼伽藍アリスはどこにいる(【知覚】)※PC4のみ判定可能
・難易度10
 ここにアリスはいない。アリスはこのように暗影に潜めるものではない。今ごろは、てずから混乱する人々を愉しげに殺し回っているはずである。だが、そうなるともうひとつ奇妙な点が現れてくる。時間が進むと止まる時間、正気を狂気へと誘う仕掛け――“気づいた時には既に手遅れ”――きっかけの事件……この現実を嘲笑う手口は、アリスのやり方なのだが。
・難易度12
 アリス。歯車。時計。既に手遅れ。時計仕掛け――そう、時計仕掛けである。アリスは過去にいて、現在にはいない。では現在になって動きだしたものはどこにいるのだろう?

▼時計仕掛けなのはあなた(【感応】)※PC1のみ判定可能
・難易度14 ※現在までに下された歪んだ御標の回数を難易度から引く
 “だれか”の夢をみた。それは、こんな夢だった。
 うるわしき黄金の昼下がり、私は「美しいもの」と出会った。アリスは言った――“あたしを造ってくださいな。それはきっと、永遠に美しいものよ”と。金色の髪、蒼い眸、白い肌……可憐な少女の小さな唇から紡がれる言葉は、私に一体のからくりを造らせた。ただの模倣ではない、私の内の「美しいもの」を原型とする器。彼女はそれを見て愉しげに笑い、器に囁いた――“美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である”――少女の言葉は魂となり器を満たし、永久機関は生まれた。

 からくりの目覚めには長い時を待たねばならないが、その時にはもう、私は生きていまい。だがしかし、私と彼女の生んだからくりは、幸福を未来にもたらすのだから――“めでたしめでたし”。

▼いま為すべき事はなにか(【社会】)※PC2のみ判定可能
・難易度10
 壊れた時計を直す時、時計技師はまず蓋を開き隠された内部機構を俯瞰し故障箇所を探す。秩序の中の歪みは、全体を観察すればおのずとわかるものだ。
 だからそう、それは、はじめから奇妙だった。ガラクタの中のからくり。秩序の中の混沌であるそれに興味を惹かれたはずなのに、気づけばそれはより大きな混沌に埋もれて秘されていた。

・難易度12
 職工ならば知っている、だれもが知っている――“歯車がひとつでも狂えば時計は動かない。秩序も同じだ”と。職工ならば壊れた機械は直さなければならない。それは紡ぎ手も同じだ。故障箇所は見つかった。あとは、歪んだ歯ぐるまを取り除くだけである。

◆結末
 すべての情報を調べたら、シーンを終了する。

●シーン8:時間は進む?
シーンプレイヤー:PC①
◆解説
 全員登場。三度目の歪んだ御標がPC①からくだされる。事態が混沌を極めるなかPCたちにひとつの選択肢が与えられる。それは、歪んだ御標を打ち砕く事による事件の解決、即ちPC①の死を意味する。
 ※歪んだ御標の下った回数を「三度目」と記載しているが、これはミドルフェイズ冒頭で伝えたGMによる任意の歪んだ御標がくだされなかった場合である。さらに多くの歪んだ御標がくだされていた場合、その回数を描写等に反映すること。
▼描写
 ふたたび、歪んだ御標がくだる。三度目の声は、内から響くだけでなく、君の口を通じて外へと溢れだした。
(任意の歪み表をROCする)
 三度目――そう、この歪んだ御標は歯ぐるまの回転のように、時間が意味を失うその時まで延々と繰り返される。君とは、歪んだ御標を核とする時計仕掛けの歯車であった。

▼セリフ:PC①から発せられた歪んだ御標
『美しいものは永遠であり、ゆえに美しいものを知る者は幸福である』
◆結末
 繰り返される歪んだ御標。行き着く先は歪んだ永遠。最も容易で確実な答え――「PC①の破壊」は君たちの前に示された。だが、ほんとうにそれは正しい選択なのか、よく考えるべきだ。
 当シーン以降、参加者全員の同意があればいつでもPC①との戦闘を行なう選択が可能となる。戦闘を行った場合、その結果に従いエンディングを描写する。「PC①の破壊」を保留する選択をした場合はシーンを終了し、次のシーンへ移行する。
 GMは上記の選択について、齟齬の無いようにPLへ伝えること。

●シーン9:時計は壊れた
シーンプレイヤー:PC②
◆解説
 PC②は街で知り合いの時計技師に声をかけられる。彼は挙動不審の様子で時計が壊れたと繰り返している。
▼描写
 ふと見れば、何かに怯えるように通りを行く男の姿が見えた。彼は君の知り合いの時計技師で、いつも保守派に議論をふっかけているような溌剌とした若者だ。彼の虚ろな眸は君を見た。裏返った声が壊れた時計を直してくれと叫ぶ。
▼セリフ:狂った時計技師
「PC②、時計が壊れたんだ。なのに、どこが壊れてるかわからないんだよ」
「おかしいんだ。もう何時間も経ってるのに、時計の針はちっとも進みやしない。世界はどうなっちまった? それとも壊れちまったのはおれの頭なのか?」
「壊れた機械は直さなきゃならない。壊れたのがおれなら、何を直せばいいんだ。なあ、PC②……」
◆結末
 人々の正気は限界をむかえようとしている。時間はもう残されていない。
 PC②が時計技師との会話を終えたら、シーンを終了する。

●シーン10:子どもは笑った
シーンプレイヤー:PC③
◆解説
 PC③は、「時間秩序の歪み」が人々を混乱させて街に混沌の広まる様を目の当たりにする。
▼描写
 街で奇妙な光景を見かける。子どもたちが空を見上げ楽しげに笑っている。彼らはちぐはぐに時間を数えながら、歯ぐるまの回る様を見ている。狂ったように笑う子どもたちの姿を周囲の人々は虚ろな眸で眺めている。
▼セリフ:数える子ども
「アハハ。やっぱりおかしいよ。きょうは歯ぐるまが全然回らないんだ。ほら――イチ、ニイ、サン――やっとひとつ刻んだ! アハハ。歯ぐるまだけじゃない。みんなおかしいんだ!」
「音が聞こえてきて、みんなヘンになっちゃったんだ。はじめは怖かったんだ。でも、ぼくらもヘンだったんだ」
◆結末
 歪んだ御標により人々の意識は世界の理から剥離していく。もとより人々の“ほつれ”すべてを繕うなどできるはずもなく。混沌の中で狂気に陥った人々は致命的な行動を取りかねない。一刻もはやく事件を解決しなければならない。
 PC③が切迫した事態を認識したら、シーンを終了する。

●シーン11:不思議の国
シーンプレイヤー:PC④
◆解説
 開始時はPC④のみ。PC④は此度の舞台を俯瞰する。
▼描写
 街中が混沌としている。生活の機能は徐々に失われ、住民は皆おかしくなっている。この劇の悪趣味は、その結末への最も容易な至り方が示されている事にある。歪んだ御標――それを核とするPC①を壊せば、秩序は取り戻されて物語は“めでたしめでたし”と終幕するだろう。
 紡ぎ手たちの非情な決断と、PC①という「美しい犠牲」によって。
 だが、犠牲を伴う選択、もっともらしい大義名分――それは歪んだ御標に従う事と何の違いがある?

◆結末
 これでは伽藍アリスの人形になったようなものだ。狂った筋書きは正さなければならない。もとより、紡ぎ手とはそういうものだろう。
 PC④が事件解決の方法を選択したら、シーンを終了する。

●シーン12:石を売る女
シーンプレイヤー:PC①
◆解説1
 全員登場。場所は特にこだわりがなければ、「巨大な歯車の下」にすること。選択の時間が迫る中、歪んだ御標を打ち壊すための犠牲となる役割を与えられたPC①の前に“ミセス・ハート”が現れる。彼女はPCたちに対し、まことの御標を伝える。
▼描写1
 からくりとは人に奉仕するために造られた存在であり、ゆえにPC①の犠牲は「美しいもの」となる。犠牲となる事ですべてが元通りとなれば、職工の国は再び安寧を得、PC②の憧憬する歯ぐるまはこれからも変わりなく回りつづける。だから、その自己犠牲は、きっと「美しいもの」だ。
 刻一刻と選択の時が迫る中、君たちの前に“ミセス・ハート”と名乗る女が現れる。彼女は奇魂石――からくりの心――の商人であり、その専門家だと言う。また、この演目における彼女は役割はメッセンジャーであるとも。

 “ミセス・ハート”は言う――“この来訪はまことの御標に導かれたもの”と。――そうして、新たな御標は紡がれた。
『正しい心のからくりは歪んだ歯ぐるまを打ち壊し、すべて世は事もなし

▼セリフ:“ミセス・ハート”
「ここまで来るのに、随分手間をかけましたわ」
「あなたの心を売ってくださいな。代わりに、新しい心をあげましょう」
◆解説2
 “ミセス・ハート”は、PCたちに新たな選択を提示し、それはPC①の破壊よりも危険である事を伝える。
描写2
 “ミセス・ハート”はPC①の記憶を新たな奇魂石に複製し、歪んだ御標を核とする奇魂石と取り替える事で、歪んだ御標だけを打ち壊す事ができるという。だが、彼女はPC①という器から逸脱した歪んだ御標が世界に顕れる危険は測り知れないとも言った。
▼セリフ:“ミセス・ハート”
「ただ原物の心を失うだけです。“壊れた部品は取り替える”――機械ってそういうものでしょう?」
「もちろん、器から取り出した歪んだ御標はその狂気をより顕します。“タガが外れる”――歪みとはそういうものですわ」
「御標のある以上、もとよりわたしに選択権はありません。“わたしは片方に傾いた秤を均衡にしただけ”――いつだって、決めるのはあなたたちです」
◆結末
 “ミセス・ハート”が選択肢を提示したら、即座にシーンを終了し、シーン13の描写を行なう。

●シーン13:天の秤
シーンプレイヤー:マスターシーン
◆解説
 PCたちが最終決定をくだすシーン。PC①を破壊すればエンディングとなり、PC①から歪んだ御標を取り外せばクライマックスフェイズへ移行する。
▼描写
 PC①を破壊し、秩序を取り戻し多くの人々を救うか。
 PC①を救うため、多くの人々を危険にさらし顕現する狂気と戦うか。
 いまこのとき、秤は均衡を保っている。
 ――――さあ、まこと美しいものを決める時がきた。

◆結末
 選択は為された。――天の秤は物語の結末を示す。
 PC①の破壊を選択したら、ふさわしい演出を行い、エンディング(シーン20)「美しい犠牲」を読み上げる。PC①を救う選択をしたら、クライマックスフェイズの最終戦闘へと移行する。

○クライマックスフェイズ

PC達と結末を決定する『黒幕との最後の戦い』を描くフェイズ。

●シーン14:ふたつの永遠~アリスと歯ぐるま~
シーンプレイヤー:PC①
◆解説1
 PC全員自動登場。PC①から歪んだ御標を核とする奇魂石を取り出し、“ミセス・ハート”の持つ奇魂石と取り替えるシーンである。歪んだ御標が世界に顕となる影響を考慮し、PCたちは街なかを離れ巨大な歯車のもとにいる。
▼描写1
 “ミセス・ハート”の秘儀によりPC①の記憶の複製は為される。あとは奇魂石の取り替えのみ。
 本来ならば、容易であるその作業は取りだす奇魂石が歪んだ御標であると途端に困難となる。
「奇魂石の取り替え――知識は持ち合わせております。ただ、それが歪んだ御標であるとすれば、それはあなた方が為さなければなりませんわ」
 “ミセス・ハート”曰く――機械構造を把握し奇魂石を取りだす技術、洩れだす“ほつれ”を抑制する手業、奇魂石を寸分の狂いもなくPC①へと取りいれる精確な手さばきを必要とする。

 そしてまた、こうも言う――ここにはすべて揃っていると。
 巨大な歯車の許、からくり(PC①)はふたたび目覚める。時計の針は動きだす。

 動きだした時計の針は時間秩序の輪環に暗影の針を落とす。いま狂気は顕となった。
▼セリフ:“ミセス・ハート”
「ふたたび、歯ぐるまは回りはじめました。あとは、歯ぐるまを脅かす“影”を滅すのみです」
「わたしの役目はここまで。それでは紡ぎ手のかたがた、幸福な結末を」
◆解説2
 世界に顕となった伽藍アリスの歪んだ御標“伽藍アリスの影”との戦闘。
 伽藍アリスの影は、毎ターンクリンナップ終了時に歪んだ御標をひとつくだす。時間の猶予はない。この戦いの敗北とは、すなわち世界が歪んだ永遠に到達する事を意味する。
▼描写2
 PC①から取りだされた歪んだ御標から、黒い泥のような“ほつれ”がどろりと溢れだし、ひとつのくすんだ人形を形造る。それはある少女のかたち。御標を紡いだ伽藍アリスのかたちだ。“伽藍アリスの影”ともいえるそれは、壊れた機械の様にある言葉を繰り返している。
「美シイモノハ、ハ、永遠、永遠、美シイモノハ、ハ、幸福、幸福、美シイモノハ、ハ、メデタシ、メデタシ……」
 “チクタク、カチカチ、チクカチ、タクカチ”――頭上にある巨大な歯車が異質な音を立て不規則な回転を始める。性急に時間秩序は崩れゆく。
 世界が狂気に染まろうとする時、物語の最後の戦いが始まる。

▽敵データ
名称:伽藍アリスの影
種別:からくり/レベル:11/サイズ:1
肉:18/+6 知:18/+6 感:12/+4 意:9/+3 社:12/+4 縫:9/+3
命:7 回:3 術:7 抵:6 行:9 HP:200 MP:60
攻:<斬>+22/物理 対:単体 射:至近 防:斬11/刺11/殴11
「美シイモノハ、ハ、永遠、永遠、美シイモノハ、ハ、幸福、幸福、美シイモノハ、ハ、メデタシ、メデタシ。」
「ア、ア、アリス。愛シノ娘――コッチヲ、見テ――アリス、アリス、アリス……。」

◆特技:宣言なし
・《歯車仕掛けの心》1/オートアクション/自動成功/自身/あなたは[種族:人間]のキャラクターにとどめをさすことができない。――ゆえに、時間秩序を歪ませ間接的に殺戮を行う。
・《長き両腕》2/常時/特技の射程を上昇させる(適用済み)。
◆特技:攻撃(組み合わせ) ※修正の数値は適用済
・カイロス(《攻撃増幅》3+《鉄の殲滅者》1)/マイナー+メジャー/【命中値】10/対決/範囲(選択)/10m/22+4d6ダメージ/伽藍アリスの影から巨大な影の鋏が射出され、周囲のあらゆるものを裁断する。
◆特技:補助
・《虚ろなる魂》/オートアクション/自動成功/自身/対象はバッドステータス(BS)を受ける度に宣言できる。HPを3点失うことで、BSを回復できる。また、HPが0になった場合、自動的に死亡となる。
・《歪曲する時》/イニシアチブプロセス/自動成功/自身/あなたは即座に[未行動]となり、【HP】を10点失う。1シーン3回使用可能。
・《高速処理》1/オート/マイナー直後に使用。追加で1回マイナーを行なう。1ラウンド1回。
◆逸脱能力:戦闘
《虚構現出》4回/いつでも/使用された逸脱能力を打ち消す。
《静止する世界》4回/イニシアチブプロセス/自身が即座にメインプロセスを行ない、判定のダイスを3d6に変更する。
《空間拡大》2回/攻撃の対象を場面(選択)に、射程を視界に変更する。
◆逸脱能力:フレーバー ※実際の使用の有無に関係なく使ったものとして扱う
《心砕き》1回/いつでも/記憶と人格を操作する。PC①の記憶喪失の根拠としてもよい。
《虚ろなる願い》1回/メジャーアクション/願いをひとつ叶える。NPCたちの狂気の根拠としてもよい。
◆戦闘初期配置
PCから10m離れた位置に“伽藍アリスの影”を配置すること。
◆戦闘プラン
PCが同じエンゲージにいない場合、《高速処理》を使用し、戦闘移動とカイロスを同時に使用してPCを攻撃すること。基本は《静止する世界》と《空間拡大》で全体に攻撃を行ない、《虚構現出》は攻撃を通すために積極的に使用する。《歪曲する時》は使える時に積極的に使用し、できるだけ多くの攻撃機会を増やすこと。

◆結末
 戦闘が終わり、伽藍アリスの影は砕かれ宙に霧散する。巨大な歯車から広がるその衝撃は、白領山脈を揺るがした。
 舞い上がる砂塵が晴れた時には、異質な音は消え、巨大な歯車の回転も正常に戻っていた。
 シーン終了、エンディングへ。

○エンディング

それぞれのPCが、今回の演目の『結末』を描くフェイズ。
以下はエンディングの一例である。クライマックスフェイズの展開などによって描写を変更すること。

●シーン15:黄金の昼下がり
シーンプレイヤー:マスターシーン
◆解説
 共通のエンディング。全員登場。演出を読み上げ、その後の職工の国を描写したら、結末へと移行する。
 伽藍アリスの影を砕いた衝撃は、職工の国を覆うスモッグを吹き飛ばした。のぞいた青空と太陽の輝きを浴びて人々は肩を寄せ合い歓喜の声をあげた。人々の感じていた奇妙な違和感も、この「衝撃」のためにどこかへ吹っ飛んでしまった。
▼描写
 その衝撃は空を覆うスモッグを吹き飛ばし、のぞいた青空から射し込む暖かな陽の光は職工の国にふりそそぐのでした。
▼セリフ:職工の国中の人々
「うおー!! 青空を見るのなんていつぶりだろう!」
「陽の光がキラキラと……なんて美しいのでしょう!」
「こりゃあ、しばらくはマスクいらずだぞぉ」
「おかあさん、なにが起こったの?」「素敵な事が起きたの! きっと、神様からの贈り物だわ!」
◆結末
めでたしめでたし。シーン終了。

●シーン16:「美しいもの」を探して
シーンプレイヤー:PC①
◆解説
 PC①はこれからの事を考える。
▼描写
 始めに目覚めた薄暗い路地裏にて、君はこれからの事を考える。
◆結末
 君は薄暗い路地裏から明るい青空の下へ出た。遠くの白峰山脈には歯ぐるまが輝いている。シーン終了。

●シーン17:歯ぐるまは今日も回る
シーンプレイヤー:PC②
◆解説
 PC②のもとにひとつの依頼が届く。PC②は依頼を受けるだろうか。
▼描写
 あの事件から数日後、君のもとにある依頼が届いた。
 それは時計技師組合を通し首長コッペリウス7世より出された依頼だ。
 職工の国に一時の青空と太陽を届けてくれた神への感謝の証に造られる記念時計の製作を君に頼みたいという。その推薦と後見人には、アブラアン・ブレゲの署名が記されている。
 “好きにやってみろ”――偉大な先立の声が聞こえた気がした。
 さて、この依頼、どうしようか?

◆結末
 歯ぐるまは今日も回る。職工の国は日常を繰り返す。だが、変わらない日はひとつとしてない。シーン終了。

●シーン18:すべて世は事も無し
シーンプレイヤー:PC③
◆解説
 PC③は今回の事件の報告をアブラアン・ブレゲと“夜の女王”に行なう。
▼描写
「歪んだ歯ぐるま事件」の顛末を君はブレゲとアリアに報告した。彼らの話では「時間秩序の歪み」は消え去り、人々の意識の“ほつれ”の影響もやがて時間とともに薄らいでいくという。
▼セリフ:アブラアン・ブレゲ、アリア・B・コロラトゥーラ
(ブレゲ)「裁縫師、あんたのおかげで街も時間も元通りだ。重ね重ね感謝する」
(ブレゲ)「“ほつれ”の影響でズレた意識時間も、物理時間の経過が元に戻してゆく」
(アリア)「PC④、事件をうまく解決したみたいね。あなたを行かせてよかったわ」
(アリア)「ここでの仕事は終わり。それじゃあ、次の行き先の話を始めましょう」
◆結末
 君は次の土地へ、足を向けた。シーン終了。

●シーン19:少女は狩人に愛狂しく微笑んだ
シーンプレイヤー:PC④
◆解説
 職工の国から去るPC④は、伽藍アリスと対峙する。
▼描写
 事件の後、君はふたたび伽藍アリスを追う旅に出た。国を出た君に対して、見知った少女の声が呼びかける。
「もうっ! せっかくおもしろい舞台を用意したのに。貴方のせいでダイナシよ!」
 現れたのは金色の髪に蒼い眸をした白い肌の少女――伽藍アリスはその頬をぷくりとふくらませて不満げだ。
「結局なんにも元通り。こんなにツマラナイことってないわ! 駄作も駄作、観客からは非難の嵐よ!」
 そのむくれる姿は年ごろの少女がわがままを言う様と変わらない。
 そして、一通り文句を言ってから、少女は狩人に愛狂しく微笑んだ。

▼セリフ:伽藍アリス
「でも、いいの。PC④さまがあんなニセモノに殺されちゃうのはザンネンだなあって思ってたから」
「PC④さま、生きててくれてありがとう! 次に会うときは、ホンモノのあたしが殺してあげる!」
◆結末
 PC④との会話が終わると、伽藍アリスは笑顔のまま空間ににじむように消え去る。シーン終了。

●シーン20:「美しい犠牲」
シーンプレイヤー:PC①
◆解説
 シーン13で「PC①の破壊」を選んだ直後のシーン。PC①ごと歪んだ御標は砕け、時間秩序は回復する。歪んだ御標を砕いた際の衝撃が職工の国を覆うスモッグを吹き飛ばし、頭上に顕れた青空からは暖かな陽の光が降り注ぐ。
▼描写
 君の美しい犠牲によって職工の国は救われた。人々はスモッグの払われた青空を見上げ、降り注ぐあたたかな陽光に歓喜の声をあげている。歪んだ秩序はやがて回復し、何もかもが元通りになるだろう。ただひとり、君という犠牲を除いて。
▼セリフ:歓喜する人々
「ねえ、見て! 青空なんていつぶりかしら? お日さまの光をめいっぱい浴びるのなんてはじめて!」
「なんだか悪い夢をみていた気分だ。あれはなんだったんだろう?」
「なんでもいいよ。結局のところ――“めでたしめでたし”――ってわけさ!」
◆結末
 やがて青空はまたスモッグに覆われて、人々の時間に対する違和感もなくなっていく。そしてすべては元通り。「美しいもの」――その犠牲を知るものはなく――すべて世は事もなし。

●シーン21:静止する世界
シーンプレイヤー:GMシーン
◆解説
 クライマックスフェイズの戦闘で全滅した場合のエンディング。バッドエンド。
▼描写
 倒れ伏す君たちの意識が、徐々に緩慢になっていく。一瞬は永遠に延び、耳に聞こえてきたのは時計の針が歪な時を刻む音。――“チク…タク……チク………タク…………チク………………タク………………”――それもやがて、聞こえなくなった。意識は虚無に飲み込まれ、動くものはもうない。
◆結末
 歪んだ永遠が訪れ、歯ぐるまは止まった。動くものはもうない。演目終了。

■アフタープレイ

 演目の目的を達成した項目については、以下のように判断すること。
・伽藍アリスの影を倒した:2
・PC①を倒した:2
・PC①を救い、職工の国の時間秩序を取り戻した:3
・PC①を壊し、職工の国の時間秩序を取り戻した:2
・伽藍アリスの影を早期に撃破した(目安:3ラウンド以内):2

これでセッションは終了となります。お疲れさまでした。

■演目ノート

本演目を遊ぶうえで参考になる事柄や、シナリオの参考とした資料等を紹介する予定です。
内容をまとめ次第、随時追加していきます。

●シナリオ作成者:トカゲッコー
公開した内容に何か質問や不明な点がありましたら気軽に御連絡ください。
コメントで構いませんが、TwitterのリプライやDMでしていただけると、早めに反応できるかと思います。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際 (CC BY-NC-SA 4.0) ライセンスの下に提供されています。

本作は、「すがのたすく/F.E.A.R.」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する「モノトーンミュージアムRPG」の、二次創作です。
(C)2011 Tasuku Sugano / FarEast AmusementResearch Co.,Ltd./PUBLISHED BY ENTERBRAIN,INC.

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