〇晴れ。散歩日和だった。門前では野良猫たちが欠伸をし、往来の木々は蕾を付けて春を待っている。まこと長閑という他無い。
〇山田風太郎『警視庁草紙』を読む。何度目かの再読になるが、物語の中で柴五郎のエピソードを見つけて、ふとその最期を調べてみた。
軍を退役後、育英事業に尽力した柴五郎は、一九四五年八月一五日に社団法人日本放送協会から放送された「大東亜戦争終結ニ関スル詔書」――いわゆる玉音放送を聞いた一ヶ月後、自決を図るも一命とりとめ、その年の一二月にこの時の傷がもととなり病死した、とある。
こういったことだから、山田風太郎も『人間臨終図巻』に何か書いているだろう、とそちらを繰ってみたが、意外にも柴五郎の項目は無い。自決を図る柴五郎の脳中にあったのは、敗戦日本に対する草創期の軍人としての念ではなく、戊辰戦争の折、城下へ進軍する官軍を前に、己だけ逃がして自決を遂げた母や妹らへの念ではなかったか――等、書くことはありそうなものだが。
しかし、天下には既に『ある明治人の記録:会津人柴五郎の遺書』という回顧録が存在するし、これはいまでも出版されている名著だから、もはやこれ以上何をか書かん、と思ったのかもしれない。恥ずかしながら私はまだ読めていないので、今度読んでみようと思う。