〇晴れ。母が祖母の家の鍵を大家に返すのに付き合った。といっても、私は祖母の家の近くに用事があっただけで途中まで同行しただけのようなものだが。
私にとって祖母の家は幼い時分から親しんだ場所で、その場所が見知らぬだれかのものとなる──しかしながら、昭和初期頃築造の長屋で次の借り手はいなかろうという話だが──のは、なんだか泣きたくなる。
私ですらそうなのに、生家が見知らぬだれかのものとなる母の気持は如何。気丈にふるまうのは生きてきた経験の差か。私はかつては少女だったひとの心が安らかであるように、泉下の祖母に祈るだけである。