〇こんな夢を見た。
私はなぜかラーメン屋でバイトをしていて、出前を届けるように頼まれたので、岡持ちを手に渕淵という人のところへ向かっていた。私は渕淵なんて人は知らないから、家がわからず途方に暮れている。
ふと、ここは祖母の家に近いことに気づいた。祖母に道を尋ねようと家まで行くと、玄関のかまち(祖母の家の玄関はかまちが高く、膝上くらいまである造りだった)に腰かけている。
生前、祖母がよく腰かけていたところである。
生前――そうだ、祖母はもう死んでいる。
私は、これは夢なのだと気づいた。
気づいてから改めて祖母を見ると、顔が若い。若いといっても私の知る祖母の顔で、私の幼いころの祖母はこんな顔だったように思える。
「ああ、ラーメン買ってきてくれたの」と、祖母は顔をほころばせた。そうだ、こんな顔をして、こんな声で笑う人だった。
「ううん、バイト中なんよ。これ渕淵って人の家に届けなあかんのやけど、おばあちゃん知ってる?」と、私は問う。「渕淵さん……いやあ、知らんなあ」と、祖母。「そうやんなあ、もうちょっと離れたとこかなあ」と、私は言う。
夢と分かっていたから、もう渕淵さんへの出前についてはどうでもよくなっていた。祖母が知らないというのも、私の夢で私の知らないものを祖母が知っているはずがないから、『そうやんなあ』なのである。
「もうそろそろ終わりそうか?」
と、祖母が私に尋ねてきた。バイトのことだろう。終わる時間は知らないが、終わりそうだと思ったから、「うん、そろそろ終わるよ」と、私は岡持ちを持ち直して答えた。
もう行かなければならなかった。
祖母は微笑んだ。
「そうか、がんばってね。また来てね」
私は言う。
「うん、また来るわ。久々におばあちゃんに会えてうれしかったよ。じゃあね。――」
そうして、祖母の家の玄関を出て、私は目が覚めた。
入院してから、祖母はよく「もう一度、あのラーメン食べに行きたいなあ」と私に言っていた。祖母の家の近所にラーメン屋があって、そこのチャーシュー麺は祖母の好物だった。生前、祖母のまだ元気だったころ、祖母と母と私の三人でよく食べに行ったのを覚えている。
結局、その願いは叶うことなく、祖母は死んだ。夢の分析なんて徒労にしかならないが、やはり心残りになっていたのだろう。
私は目覚めて、夢の内容を思い出し、久々に祖母の顔を見、声を聞けたことを懐かしく思った。
そうして、さめざめと泣いた。