〇晴れ。今日は七夕である。七夕とは古代中国の牽牛織女伝説に由来する年中行事だが、天帝に引き離された織姫と彦星が年に一度だけ逢瀬を許された日というロマンチックな物語よりも、銘々願事の書かれた短冊を笹に吊るして願掛けをする日という印象が強い。
京都で学生だったころ、たまさか七夕の日に街を歩いたことがある。場所はどこだったか、もう忘れてしまったけれど、観光客向けの通りとは違う地元の商店街だった。各々の店先に小机が置かれ、横には小振りな笹が立てられていた。小机には短冊とペンがあり、おそらく近所の住民であろう人達が、願事を書いては笹に吊るすのである。
異邦人だった私は、人々に交じって短冊を書くでもなく、――京都という古都は今もこういう光景があるのか、と物珍しく思いながら、足早に通り過ぎてしまった。今考えれば、一枚くらい短冊を書いてもよかった気がする。
〇牽牛織女のこと。
この物語を聞くにつけ、いつも私の思うのは、天帝の二人を引き離したのは失策ではなかったかということである。
一日千秋の恋心を持続させるには、常日ごろ顔を突き合わせているよりも、二人の間に流れる破滅には至らない程度の障害のため年に一度だけ逢瀬できる、という状態が丁度好いように思われる。天帝は、恋人たちの炎が最も盛んになる瞬間に彼らを引き離して、しかし親心故か、待てば必ず再会できる生ぬるい状況を与えてしまったがため、却って牽牛織女の伝説を永遠たらしめたように思えてならない。